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【4】「ヒトツモノ」としての「1」

更新日:2023年11月10日

一般に一つ物、一ツ物などと表記され、文献史料では一物、一者とも表記される。日本書記は、「時に、天地の中に一物生れり。状葦牙の如し。」とあり、天地開闢に芽生えた葦牙である原初の植物を「一物」とも書く。「モノ」は、腹に「一物(いちもつ)」を持っていると言う時の「モノ」、また「物の怪」の「モノ」と同じである。「物部」「大物主神」の「物」とも同じ。眼に見えない隠れた存在、霊的な力を示す神的な存在を表す。「ヒトツ」は数える「一」でなく、全体を表す意味である。

社寺の祭礼・法会などで行われる神事・行事の中で、稚児などの扮装した人あるいは人形がヒトツモノと呼ばれる。

ヒトツモノという名称は、一番目立つという意味で風流であるとの説がある。山鳥の尾羽や紙垂(しで)をつけた笠を被り、化粧をした稚児が神幸行列において馬上に乗る。風流と見られる装飾や化粧は、神の荘厳・威厳さを表現されたものである。俗世間とは異なる異界の装束である。

あるいは神霊が憑依する依坐やその名残であるという説がある。神の乗り物の馬上は神の降臨の聖域である。祭りの渡御の行列の中で馬上に乗る依坐もヒトツモノと称し、稚児や人形である場合もある。

ヒトツモノであると考えられている行事がいくつかの地域で行われている。熊野速玉大社(和歌山県新宮市)、大宝八幡宮(茨城県下妻市)、八王子社(愛知県江南市)などでは神馬に人形を載せたヒトツモノとしている神事が行われている。ヒトツモノの神事として、大宝八幡宮の祭事では、最後に一つ目のわら人形を大宝沼川(現在は糸繰川)に落とされる。一つ目のわら人形はヒトツモノとして神の姿である。

ヒトツモノとして、次のような「目が一つ」の伝承がある。

箕借り婆(みかりばば)は、関東地方に伝わる一つ目の老婆の妖怪である。妖怪の一つ目小僧は、山の神の零落した姿である。猟師やきこりによって祀られた神の伝承には、一つ目一本足の異形の神の姿・形が垣間見える。製鉄従事者が信仰する単眼神は、天目一箇神(あめのまひとつのかみ)と関連するという。

案山子の一本足は、ヒトツモノとしての神の姿である。人形としてのかかしは、神の依り

代として呪術的な田の神の依代であり、鳥獣害を起す悪霊を払う。蓑や笠を着けていることは、神や異人などの他界からの来訪者であることを示している。

ヒトツモノは、神の世界・あの世の世界からこの世に来訪する目に見えない神の姿を具現化したものである。

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