道として「一」は、老子の「道徳経』に、「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生じる。万物陰を負いて陽を抱き、沖気を以って和を為す」とある「道は一を生じ」の「一」である。
「一」は根源的意味の太極を意味する。陰陽未分の太極である一気から陰陽二気が生ずる。数の流れを見ると、一から分裂して二となる。「二は三を生じ」とは、二の次が三となるのは、1+2+3=6となるのでなく、1+2=3となる。太極一気と陰陽二気を合せて三の意味である。この三が万物誕生を象徴する数字である。
この万物を生成する太極・陰・陽を三極構造としてみると、三極を三角形の三点に配当し、太極を頂点に、その底辺に陰と陽を置いてみる。底辺の陰・陽を両端の二点の中央に均等に歩み寄り集約されて行くと、太極は陰・陽の底辺を垂直に二分した中心線上の頂点に到る。
このように「三」の数の万物を生む呪術的力は、三点の構造を持つ様々な形態に整えて信仰的意味を与えている。山の山名に三山の呼称を与え、神聖な山岳景観を作っている。神仙思想による不老不死の蓬莱山・方丈山・瀛洲山の三山、その例にならう大和三山(香具山・畝傍山・耳成山)・熊野・出羽県内に鳳凰三山など、三山の名称が全国に見られる。富士山の絵に、三つの峰が頂上に描かれるのが見られるは、三山の神秘性を表現するためであろう。
次のように神々の示現形式に見られる。
混沌の一から天地の陰陽の二を生じ、二から三柱の三を生ずる典型的な誕生形式になっている天地開闢神話の造化の三神、天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神である。『古事記』の伊邪那岐命から生まれたのは三貴子、天照大神・月読命・須佐之男命である。木花咲屋姫命から生まれた、火照命(もしくは火明命)・火須勢理命・火遠理命の三柱の火神を産む。住吉神社の祭神は、底筒男命・中筒男命・表筒男命の三神の総称である。
寺院建物の配置形態などに影響を与えている。奈良の薬師寺など、左右の塔、金堂の配置は三極の構造と見られる。
「一」の根源から発する「三」は、聖なる数になっていることが分かる。
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